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NEVER END LOVE 2nd  #5
 夢のような一時を過ごした後、聖樹はすやすやと寝入り、尚葵は余韻に浸っていた。顔にかかった聖樹の髪をそっとなでつける。絹糸のようなサラサラの髪だ。その気配に気付き、聖樹はゆっくり目を開けた。
「起こしたか。すまん」
「……ううん。先生に髪さわってもらうと…気持ちいい」
 よほど心地が良いのだろう。されるがままに身を預け、もっと触ってと瞳を閉じる。尚葵は愛おしそうに、幾度も指先で絹糸の流れを堪能していた。
 しばらく尚葵の行為に任せていた聖樹が口を開く。
「ね、先生…笑わないで聞いてくれる?」
「どうした、突然?」
「絶対、笑わないでよ」
 さらに大真面目な顔で念を押す。わざわざ最初に釘を刺しておくくらいだ。心して聞く必要があるぞ、と覚悟する尚葵だが。
「わかった。笑わない」
 宣言する側から、緩む口元。不実な恋人にどうしたものかと思案に暮れながらも、聖樹はやがて決心したように語り始めた。

「僕、小さいときから夢をみるんだ」
「そりゃ、誰でも夢は見るだろう」
 無言で尚葵を見つめる視線が冷たい。これはあまり茶化さない方が良さそうだ。右手で軽くゴメンのポーズをとり、続きを促した。
「……それがね、ずっと同じ夢なんだ」
「同じ夢?」
「うん」
 興味をそそられた尚葵は、半身を起こす。
「へぇ…どんな?」
 その夢は聖樹にとって相当大切なもののようだった。瞳を輝かせ一言一言丁寧に言葉を紡ぐ。
「あのね、病気になった僕が車椅子に乗っていて、紙飛行機を飛ばすの」
「!?」
「そうしたら少し離れた場所にいた男の子に当たってしまって…僕はその子に一目惚れしちゃうんだ」
 尚葵の瞳が大きく揺れた。幼い頃から見ている夢だって!? そんな…そんなことって……
 彼の動揺に気づく様子もない聖樹は、すっかり夢の世界に浸りきっている。
「あの病院に初めて行った日、夢の中の光景とあまりに似ていたから、びっくりしちゃった。それに先生も、僕の顔を見てすごく驚いていたし、もしかして何か知ってるんじゃないかなって…」
「…………………………」
「……そういえば先生、何となくあの男の子に似てる…ね………」

 尚葵はたまらず吹き出した。この数年、こんなに笑ったことがないというほど、腹を抱えて笑っている。聖樹は予想以上のリアクションに膨れっ面をした。
「先生っ! 笑わないでって言ったのに!!」
 大切な夢だから、大好きな人にこの想いを共有して欲しかった。それなのに、ここまで大笑いに附されるなんて。聖樹は悔しくて仕方がないといった調子で枕を投げつける。
「そう怒るな。私の負けだ」
 攻撃にもならない特攻を避け、尚葵は少年の上に覆い被さった。それでも笑いを止めようとしない。理由が判らない聖樹に逆の心配が迫る。ひょっとして自分が今打ち明けた内容は、世間的によっぽど可笑しなことだったのだろうか…?
「……あの…?」
「全く、とどめを刺された気分だよ。確かにお前は聖の生まれ変わりだ。認める、認めます」
 笑いながら告げた敗北宣言はあまりにも唐突で、少年の心に混乱を呼ぶ。
「え? え?」
「すごいな。お前。本当に生まれ変わってきたんだからな」
「生まれ…変わり? 僕が?」
 まだ頭の中が整理できない。自分は先生が好きだった人の…生まれ変わり? どうして急にそんなことを言い出すんだろう。根拠は何? ………僕の、夢?
「ああ。非科学的な現象は信じない私だが、さすがにこれだけ証拠をたたきつけられるとな」
 いつのまにか尚葵の笑いは止まり、優しく真剣な眼差しを聖樹に向けている。間違っても嘘や冗談を言っている風にはみえない。
 すると長い間夢だと思っていたあの世界は………
「…じゃあ、じゃあ、僕の夢の中に出てきた男の子って……」
「私だ」
 静かな告白。聖樹の瞳から一筋の涙が零れた。密かに焦がれ続けてきた夢の中の少年が、現実に大好きな人として目の前にいる。肌と肌が触れ合っている。
 聖樹は強く思った。これも夢だとしたら、永遠に覚めないで欲しいと。

 尚葵とて、想いは同じだ。一度は諦めた天使が、また自分の元に舞い降りてきた。もう二度と離さない、離したくない。その気持ちが、尚葵を一つの決意へ導く。
「一緒に暮らそう。嫌だと言っても無駄だぞ、もう決めてしまったのだから」
 耳を擽るその囁きに、聖樹の頭が跳ねた。弾みで絹糸の髪がふわりと靡く。
「嘘みたい。さっき流れ星にかけた願いが本当に叶っちゃった……」
「願い?」
「……ずっと先生の側にいたいって…」
 感極まって泣き出した聖樹を、尚葵は自らの胸に優しく包み込んだ。夢でも幻でもない確かな温もり。今自分の掌の中にあるのは、流れ星が作り出した小さな奇蹟。

 あの時、瞬く流星の中、少年は言った。『僕は、僕』と。それはずっと自分が探し求めていた答えだったのではないだろうか。
 もしそうなら…尚葵は思う。

 流れ星のご利益も、捨てたもんじゃないな----------
あとがきという名の言い訳。

尚葵くんがおマセ中坊からいきなりアダルティなおっさんに成長ι
医療関係は一応調べたふりはしてみたものの、かなりな嘘書いてます。
病院関係者の方々、もしご覧になっていましたらごめんなさい(^ ^;

“輪廻転生”という言葉にあります通り、
この2人は時間を超えて幾度も巡り逢い愛し合ってきたのかも。
なんてことをふと考えたりします。

肉体を超えた魂の繋がり…これぞ究極の愛ですねー。
でも現実にそういうのがあったとすると
それはきっとロマンチックを越えて
あなたの知らない世界……<いうな
1999年1月4日脱稿
2000年1月22日改訂
2003年2月2日改訂
2005年8月31日改訂
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